2019/6/3

言葉のちから その18

言葉のちから  (こころの目)

 

辻井伸行さんのメロディーはどうしてこんなにも美しいのだろう……。
過去のインタビュー映像を見ていたら、
その答えを12才だった頃の辻井伸行くんが答えてくれていました。
「がんばってくださいと(ピアノに)言って キモチをこめるとすごく美しい音がでます」
2009年6月8日、アメリカのバン・クライバーン国際コンクールで日本人初の優勝という快挙を成し遂げた辻井伸行さん(20才)
目が見えない、全盲で生まれた伸行さんを支え続けてきたのはお母さんのいつ子さんです。
伸行さんは生まれつき音に鋭敏で掃除機や洗濯機の音にも泣き叫ぶほど反応したそうです。
全盲のわが子の行く末に不安を募らせ、ほんとうに辛かった時期もあったようです。
一筋の光が射したのは、伸行さんが2歳3ヵ月のとき。
クリスマスの近いちょうど今頃です。いつ子さんが夕食の支度をしながら、ジングルベルのメロディーを口ずさんでいたところ、どこからか、その歌声に合わせてピアノの音が響いてきたのです。
それは、伸行さんの1歳の誕生日にプレゼントしたおもちゃのピアノの音でした。
弾いていたのは2歳のわが子。
「私と伸行はその日、どこに続いているかわからないけれど 確かに希望の星が輝いている『音楽』という名の道の端緒についたのだと思います」
一つでも好きなものを見つけられたことで、いい方向に向かい始めたそうです。
ここから18年間、親子の音楽の旅が始まったのです。
彼のお父さんが、以前、伸行さんが言った言葉を教えてくれました。

  ボクは目が見えなくてもいいんだけど、  もし一日だけ目が見えるなら……
  お母さんの顔を見たい。

見たいよね。この世に生み出してくれて、20年間ずっと支えてくれたお母さんの顔、見たいよね。
大好きな人の顔を見ることができる幸せ、
そこに僕らも気づかなければいけないと思いました。

『川のささやき』

この曲は、伸行さんが子どもの頃、お父さんに隅田川に連れて行ってもらった記憶を紡いで作った曲です。
大きくてたよりがいのあるお父さんの手をにぎり、川の草むらを歩く度に香りたつ若葉の薫りを思い出す……。太陽の光を包み込んだあたたかい風が頬をくすぐる感覚を思い出す……。
視覚以外の全ての感覚が捉えたお父さんとの思い出。
それを一つ残らず心の宝箱へしまいこんだ。そう思わずにはいられない曲です。

「目は見えなくても、心の目は見えているので満足しています」by辻井伸行