2019/9/27

言葉のちから その122

言葉のちから  【親子の間の数式】

 

進君という少年が学校へ行く前、前夜、書き付けた紙片を二つに折って、母親の机の上にそっと置いた。

 

それには、次のようなメモがあった。

 

「かんじょうがき

 

一 市場にお使いに行きちん     10円

一 おかあさんのあんまちん     10円

一 お庭のはきちん         10円

一 妹を教会につれていきちん    10円

一 婦人会のときのおるすばんちん  10円

   ごうけい           50円

 

進       おかあさんへ」

 

家の仕事を手伝ったんで、そのお駄賃の催促なのだろう。その状況が手にとるように伝わってくる。

なんとユーモラスな子どもだろうが。

 

母親はにっこり笑って、夕食時に勘定書と50円を机に載せた。

進む訓は大喜びで貯金箱に入れた。

翌朝、彼がご飯を食べようとすると、テーブルに1枚の紙が置いてあることに気づいた。

開いてみると、今度は母親からの勘定書ではないか。

 

「お母さんのかんじょうがき

一 高い熱が出てハシカにかかったときの看病代   ただ

一 学校の本代、ノート代、エンピツ代      みんなただ

一 毎日のお弁当代                ただ

一 寒い日に着るオーバー代            ただ

一 進が生まれてから、今日までのお世話代    みんなただ

 

ごうけい                    ただ

 

進へ       おかあさん」