2019/6/7

言葉のちから その21

言葉のちから   【やさしい電車】

「このバスはいつ出発するんですか?」

運転手にそう尋ねると「乗客が満員になったら走る」そんなふうに言われるケースって、海外を旅行してるとほんとにあります。

 日本の鉄道。 これは恐ろしいほど正確です。鉄道の定時運転、日本では1分でも遅れるとカウントされます。海外では、15分以上遅れないと遅れとしてカウントされないところがほとんど。
14分なんて遅れじゃないってことです。

 以前、脚本家の山田太一さんのインタビューを読んでいたら、太一さんは脚本を書くために電車の運転手に取材したことがあったそうで、こんなことが書かれてました。
電車の世界は厳しい世界で、駅の停車位置を少しでもオーバーランしてしまうと報告しなければいけない。あるとき、ある運転手さんは、ほんの少しオーバーランしてしまう。
一緒に乗っていた車掌は、黙っときますよ、と言ってくれた。
しかし、その人は責任を感じて運転手を辞めてしまったというのです。
日本の運転手たちは、1秒、1cmに人生をかけているのです。
だから、日本では地下鉄ですらピンポイントで整列しているところにピタリと列車が止まる。
これも外国人に言うと、「ウソだろ?マジシャンでもいるのか?」と本気にされないほどです。

日本の新幹線も神業だと思われています。数分間隔であれだけのスピードで無事故なんて神技だと。
だって、新幹線の時刻表を見てください。ひどいときには3分間隔です。「トーマスクック」というヨーロッパの時刻表を見てみると、30分間隔。しかも、それでいてよく遅れるんです。

日本の新幹線はわずか1分の遅れで謝罪放送をします。外国から日本に来た人はこの放送にビックリしています。

 

ちなみに、飛行機にとって代わられようとしていた鉄道の可能性を、日本の新幹線が再確認させて、日本以外でも高速鉄道を開発するようになったといいます。そういう意味では、ユーロスターもTGVも、みな日本の新幹線をモデルとしているのです。そうそう、皇族や国賓が乗車する新幹線の運転手に許される誤差は、なんと遅れ5秒未満、停止位置は1cm以内らしいです。
日本の運転手はみながアイルトン・セナなんです。
ちなみに、イギリスの高級紙『デイリー・テレグラフ』の元記者で東京特派員だったコリン・ジョイスさんは、日本以外では決して見られない風景の一つとしてこんな紹介をしています。
「電車の中で二人連れが立っている。 座席がひとつ空く。 お互い譲り合った後に、ようやく一人が席につくと、 必ずその人は立っている人の荷物を持ってやろうと手を差し出す。こんな心温まる小さな親切は、ぼくは日本以外のどの国でも見たことがない」

当たり前のように今日も正確に走る電車。
それは運転手さんの思いと、乗客のマナーが一緒になって、やさしい電車を走らせているんです。