2019/8/2

言葉のちから その78

言葉のちから【疑問を感じたら、相手にたずねてみる】  

風呂屋のエントツの中を二人の子どもが降りてきた。一人は顔が真っ黒で、もう一人はすこしも汚れていない。

エントツから出てきた二人は、おたがいの顔を見た。そのあと二人のとった行動はというと、顔を洗い出したのは顔が汚れていないほうの子どもで、汚れている子どものほうは洗おうともしなかった。さて、どうしてか?
 答えはこうだ。顔が汚れていない子どものほうは、もう一人の真っ黒な顔になった子どもを見て、いっしょに降りてきたのだから、当然自分も汚れていると考え、顔を洗いに行ったのである。顔が汚れているほうが洗わなかったのは、その子が見たほうの子の顔が汚れていなかったので、自分もそうだと思ったからである。
 いわれてみれば何でもない。だれでも答えられる問いである。では、なぜ私たちは簡単にこの問いに答えられたか。二人の子どもの心理を第三者の立場から、客観的に見られる有利な位置にいるからだ。
 

 

しかし、問題に出てきた子どもたちには、「キミたちの行動はおかしいよ」と教えてくれる人はいない。それでも、それぞれ相手の行動を「おかしいな」とは思ったはずだ。
 顔のきれいなほうは、「あいつは、顔が汚れてるのになんで洗わないんだろう」と疑問に思ったろうし、もう一人は、「あいつは、なんのために顔を洗ってるんだろう」とふしぎに思っただろう。この二人のおかしな行動は、ようするにおたがいに相手の行動を疑問に感じながら、それについてなにも聞かなかったところに原因があるのだ。

 こうしたことは、われわれの日常生活でもけっこうあるのではないだろうか。相手のすることや言うことに、「おかしいな」と思いながらなにも聞かずにいる。これが相手をおかしな”色メガネ”で見る原因にもつながるのである。先の子どもでいえば、「あんなに顔が真っ黒なのに洗わないなんて、なんて不潔なヤツだ」というわけだ。
 

こちらがおかしいと思っても、相手はそのおかしさに気づかないことはけっこうあるものだ。相手の言動、考え方などでおかしいと思ったことや、疑問に感じたことがあれば、すぐに相手にそれを伝えてみる。ひと言、「なんでそんなことをするの?」などと聞いてみるだけでも、相手を”色メガネ”で見てしまう危険を防いでくれるはずだ。